『トニー滝谷』

トニー滝谷』を観た(テアトル新宿で上映中)。

「トニーの本当の名前は、本当にトニー滝谷だった」で始まる、村上春樹の同名の小説の映画化だ。(『レキシントンの幽霊』所収)


不思議な映画だった。この映画の批評は賛否両論分かれるだろうが、私は概して好印象だった。ストーリーは村上のストーリーをなぞるように撮影してあり違和感が無かったが、その映像化の仕方が賛否分かれる点だと思う。

例えばり、左から右へとバーンすることで場面転換をはかるのだが、それはまるで次のページをめくり、小説を読み進めていくように映画が進んでいく。

また、独白のシーンで西島秀俊のナレーションの中に、イッセー尾形演じるトニー滝谷のセリフが交ざる。

トニー滝谷の人生の孤独な時期は終了した。もう一度孤独になったらどうしよう。ときどきそのことを思うと、「冷や汗が出るくらい怖くなった。」

確かに奇妙と言えば奇妙だが、何度もそんなシーンが続くとそれはそれで舞台と映画が交ざっていくようで、しっくり感じた。(http://www.apple.com/jp/quicktime/trailers/theatres/tonytakitani_large.html でtrailerをみることができる。)

また、宮沢りえ一人二役を演じているのだが、その演技も坂本龍一の軽妙で落ち着いた音楽とあっており、確かに両方とも宮沢りえなのだが、全く違う役であることも認識でき、その演技力を見るだけでも一見の価値がある。

イッセー尾形一人二役をやってうまいことはうまいのだが、イッセー尾形の一人芝居になれているせいか、少し邪推して観賞してしまった。

ところで、この『レキシントンの幽霊』は買ったまま、忙しくて読んでいなかったが、この映画化されると知り、書棚から引っ張り出して読んだ、という次第だ。だから、この話について特に思い入れがなかったせいもあろうが、「人はこう読んでいるのか」、と嫌みない形で他人のイマジネーションをのぞき見ているようで、新鮮な感情が沸いた。

村松正治監督がとっている『晴れた家』という、この映画のメイキングもレイトショーで上映されているようなので、それも見てみようかと思う。